表情こそあまり変わらないが、それはみごとな呆れ顔だった。

…当たり前だ、とも思った。

手配書が回っている身分で、女連れで茶屋の店先の床几に座っている。
隣ではのんきにみたらしの串を手に団子を頬ばり、あれ、とでもいう気軽さで薩摩の要人を見上げている。

怜悧な目線が鼻の先にこちらを見据えて、無愛想な口元が、開いた。

「ほぉ。私の目が悪くなったのか、それともなにか世間が劇的に変わりでもしたものか」

所が、隣からはのんきな…いや。

「前髪そんなに伸ばしっぱなしにしてるからですよ。切るなり結ぶなりすればいいのに」

………これを、普通、何というんだろうか。
反撃?
上げ足とり?
いや…


…こいつは素でこういうことを言うから怖いんだ。

前髪を結んだ大久保さんが一瞬脳裏を掠め、あまりの空恐ろしさにすぐに霧散した。

少しばかり眇められていた眸が見開かれ、今度は面白げに口の端が上がった。

「…」

「ほぉう。なら、お前に結ってもらおうか。どんな風に結うのか楽しみだな」

「え?私ですか??」

実に愉しそうな…
つまり、結果どうこいつをからかい倒すかの算段を巡らしているらしい笑顔を見て、凍りつかないのは……。

「え?え〜っと、今ヘアゴムあったっけ?」

袂を探る姿を横目に、視線が愉しそうなまままだ一串目も途中の皿を通してこちらに移る。

「成程、『犬』ならば人相など人には分からぬな」

「…っ」

くっくっと喉の奥を鳴らして笑う。

「この前、番屋の人間が手配書を置いていったがな、傑作だったぞ」

「…そうですか」

「人斬りというよりは、花柳病でも持ってるんじゃないかというような好きものの顔をしていた」

「…っ」

血が上がりそうになった。

「まぁ、誰だろうがなんだろうが好き好きなものだがな」

笑った後、それを納めて、

「小娘、」

「なんですか」

今度は懐を探っているあいつに声をかけた。

「切ることがあったらお前の助言を思い出すとしよう。仲良く饅頭でも食らっておけ」

踵を返して海老茶の羽織は人ごみに消えたが、人の悪い笑いが目の前に漂ったままの様な心地がした。


…制服を支給されるようになる、幾日か前のこと。